広島の川の王様!オオサンショウウオが教えてくれること
2022年原爆ドームの横の川にオオサンショウウオがいたという投稿がSNSで話題になりました。
国の特別天然記念物であるオオサンショウウオが、広島の街中の川にいたという事実に、多くの人が驚いたのではないでしょうか?
実は、太田川は日本でも有数のオオサンショウウオの生息地なんです。
しかもオオサンショウウオは「広島の川の王様」と呼ばれ、川の健康状態を映す鏡でもあります。
この記事では、オオサンショウウオが王様と言われる理由と、そんなオオサンショウウオが教えてくれることを解説します。

目次
オオサンショウウオは広島の川の王様
広島の川は、オオサンショウウオの国内有数の生息地です。
オオサンショウウオは、数千万年前からほとんど姿を変えずに生きている「生きた化石」と言われる、世界最大級の両生類です。
国の特別天然記念物に指定されています。
餌を食べれば食べるほど大きくなり、最大記録は全長150.5cm、44.3kgです。
繁殖に参加できる「成体」(大人)になるまでには15年以上を要すると推測されています。
そんなオオサンショウウオが、広島の川の王様と言われるのは、オオサンショウウオが、川の食物連鎖の頂点にいるからです。
つまり、オオサンショウウオが生きられない川というのは、そもそもオオサンショウウオの餌となる魚が少なかったり、魚の餌となる川生昆虫や、川の甲殻類が少なく、豊かな川とはいえない状態になっているのです。
オオサンショウウオの広島での生息地
広島県でオオサンショウウオが生息しているのは、太田川水系と江の川水系です。
中でも川の上流の支流で多く発見されています。
オオサンショウウオが成長するまで
では、オオサンショウウオが食物連鎖の頂点に立つ川では、どんな生き物たちの関係が成り立っているのでしょうか。
まず、森があり、そこから落ち葉が出てきます。その落ち葉を食べるのが、川生昆虫(カワゲラやトビケラなど、水の中で育つ虫)です。
川やその近くに、たくさんの落ち葉があったり、石に藻類がいることで、川生昆虫が生きることができます。
そして、その川生昆虫を食べるのが、川の魚です。
太田川には44種類の魚が見つかっています。
そして、最後に、そんな川の魚を食べるのが、オオサンショウウオなのです。
オオサンショウウオを取り巻く広島の現状
痩せ型個体の増加
安佐動物公園の調査では、2010年代には、全長60cmを超える大きな個体が減少し、全体的に痩せ気味の個体が増加しているとの調査結果があります。
オオサンショウウオは、餌を食べれば食べるほど成長できる生き物です。
そのオオサンショウウオが「痩せてきている」という事実は、川の魚が減り、川の生態系そのものが弱ってきているサインでもあります。
外来種による交雑の危機
広島の川では、何らかの理由で持ち込まれた中国産のオオサンショウウオ(チュウゴクオオサンショウウオ)が野生化し、日本の在来種と交わって子どもを作る問題が起こっています。
このまま交雑が進むと、純粋な日本のオオサンショウウオは広島から姿を消してしまう可能性があります。
これは、一度進むと元に戻せない、取り返しのつかない問題です。
広島がリードするオオサンショウウオの調査研究・保護活動
この危機的状況を救うため、広島では、専門家たちが研究と対策を進めています。
専門技術で交雑種を見つけ出す
広島大学では、DNA分析などの専門的な手法を使って、生息する個体が在来の系統なのか、ほかの系統と交雑していないかを調べる研究を進めています。
また、水中に残る微量なDNAの痕跡から生き物の存在を探る「環境DNA」の技術も活用し、地域の状況をより広く把握する取り組みも行われています。
オオサンショウウオに配慮した河川改修
広島市安佐動物公園では、河川工事がオオサンショウウオの生息に影響を及ぼす可能性について、調査・研究が行われてきました。
こうした知見を踏まえて、オオサンショウウオに配慮した河川環境づくりに関する取り組みも進められており、生息地の保全に役立てられています。
オオサンショウウオの繁殖に成功
広島市安佐動物公園は、長年にわたりオオサンショウウオの飼育と繁殖に取り組んでおり、1979年には飼育下での産卵に成功するなど、国内で先駆的な成果を挙げてきました。
こうした取り組みは、オオサンショウウオの保護に大きく貢献しています。
多様な生き物がすめる川とは?
オオサンショウウオが元気に暮らせる川は、同時に、川の多様性と豊かさが保たれている川でもあります。
つまり、王様であるオオサンショウウオは、川の健康状態を教えてくれる存在なのです。
多様な生き物がすめる川には、いくつかの共通点があります。
多様な環境が生まれる「蛇行した川」
蛇行している川は、流れの速い場所、ゆっくりな場所、深み、浅瀬など、さまざまな環境が自然にできます。
その結果、環境に応じて、いろいろな魚や水生生物が暮らすことができます。
石・砂・植物がつくる生き物の隠れ家
川底に石があり、川岸に植物が生えている場所は、身を隠す場所やエサが豊富になり、生き物が増えやすくなります。
一方、川をコンクリートで固めると流れが単調になり、魚がすみにくい環境になります。
よい川は「よい森」から生まれる
実は、川だけを見ていてはよい環境は作れません。
広葉樹を含む多様な木々が育ち、人の手で間伐され、光が入る健全な森こそ、川に栄養を運び、生態系の土台をつくるのです。
広島でオオサンショウウオに会える場所
オオサンショウウオは、広島の川に生息していますが、野生のものは減少していて、なかなか見つけることはできません。
しかし、出会える機会はあります。
オオサンショウウオこんにゃくで有名な広島県湯来町では、オオサンショウウオの保護活動に参加できるツアーがあり、専門家と一緒にオオサンショウウオを探したり保護活動に参加したりすることができます。
また、広島には、飼育されているオオサンショウウオに出会える場所がいくつかあります。
広島市安佐北区にある安佐動物公園では、サイズの異なるオオサンショウウオを見ることができたり、廿日市市の宮島にある宮島水族館でも見ることができます。
また、2025年10月にオープンした広島もとまち水族館には、安佐動物公園からやってきたオオサンショウウオがいます。
オオサンショウウオに興味を持ったら、ぜひ一度その姿を見に行ってみてください。
まとめ
オオサンショウウオは、広島の自然がどれだけ豊かで、どれだけ壊れやすいかを教えてくれる存在です。
オオサンショウウオを守ることは、森を守り、川の多様な生き物を守ることにもつながります。
私たちが、川や森の小さな変化に目を向け続けること。
その積み重ねが、広島の自然を未来へつなぐ力になります。
【参考文献】
- 広島市みどり生きもの協会(2021)
『オオサンショウウオを知る 守る そして共に』 - 国土交通省 中国地方整備局
「太田川に棲む魚たち」 https://www.cgr.mlit.go.jp/ootagawa/kids/monitor/tv/ikimono/fish/fish.html - 広島大学 オオサンショウウオ保全対策プロジェクト研究センター
https://www.hiroshima-u.ac.jp/prc/procen_osansho






