【図解】牡蠣筏の下の世界|人と自然が生み出す豊かな生態系

広島湾では、牡蠣筏の下で育ったアナゴは「黄金アナゴ」と呼ばれ、牡蠣筏の下で育ったカワハギは、肝がとても美味しいと言われることがあります。

なぜ、同じ魚でも味が変わるのでしょう。
牡蠣筏の下では、一体何が起きているのでしょうか。

調べていくと、牡蠣筏はただの養殖設備ではなく、さまざまな生きものが集まる小さな生態系をつくっていることがわかりました。

この記事では、一枚の図解を使って、そんな牡蠣筏の下の世界を覗いてみたいと思います。
牡蠣筏の下で生まれる食物連鎖の図。牡蠣、デトリタス、ゴカイ類、小型甲殻類、小魚、大型魚の関係を示したもの。
目次

なぜ広島では牡蠣養殖が盛んなの?

広島で牡蠣養殖が盛んな理由は、広島湾の環境が牡蠣の成長に適しているからです。
広島湾は、瀬戸内海にあるため波が穏やかで、養殖用の「牡蠣筏(かきいかだ)」を安定して浮かべることができます。

また、太田川はじめとする川から、中国山地からの栄養たっぷりの水や、街からの窒素やリンなどの栄養が広島湾へと注ぎ込みます。
この栄養分が、植物プランクトン(牡蠣の主な餌)を豊かに育てるのです。

また、川の水が多く流れ込むことで、海の塩分濃度が少しだけ低くなります。
この微妙な塩加減が、牡蠣が好む環境になっているのです。

広島湾の特徴や7大海の幸については、以下の記事で紹介しています。

牡蠣筏の下では何が起こっている?

牡蠣は、養殖用の牡蠣筏の下で育ちます。
牡蠣筏は、竹や発泡体などで組まれた台に、たくさんのロープを吊るしてつくられています。
ロープの先にはホタテの貝殻がついていて、そこに牡蠣の稚貝が付着して成長していきます。

はじまりは森から

まず、牡蠣の成長に必要なのが、植物プランクトンの存在です。

そんな植物プランクトンが育つのに必要なのが、光や、窒素・リン、キレート鉄(海で植物プランクトンが使いやすい形の鉄分)などの栄養です。
これらの栄養は、中国山地の豊かな森や、街から出る生活排水に含まれています。
そんな栄養が、川を流れて、牡蠣筏のある広島湾に注ぎ込んでいます。

牡蠣は海水をろ過しながら栄養を取り込む

牡蠣は海水を吸い込みながら、植物プランクトンをこしとって食べています。
1個の牡蠣が1日にろ過する海水は約400リットルと言われています。これはお風呂のお湯2杯分に相当します。

食べ残しやフンが海底に沈む

牡蠣の食べ残しや排泄物は、デトリタス(有機物の粒)となって海底に沈みます。
このデトリタスは、ゴカイ類や小型の甲殻類の餌となります。

小型の生物に誘引されて魚が集まる

デトリタスを餌にする生物が集まることで、その生物を摂食する小型魚・大型魚が周辺に集まります。

海の生き物たちにとっての牡蠣筏の役割

魚のエサ場としての役割

牡蠣筏の下は、牡蠣が付着生物が多く、エサが多いことから、多くの魚が集まってきます。
例えば、クロダイ(チヌ)や、ウミタナゴ、ウマヅラハギなどがいます。
また、そこに集まる魚をエサとするスズキなどの大きな魚も集まってきます。

隠れ家としての役割

牡蠣筏の下は立体的な構造をしていて、大きな魚は入ってこれないため、小魚の隠れ家となっています。

甲殻類やゴカイ類の住み家としての役割

牡蠣が出す食べ残しや排泄物は、デトリタスとして、さまざまな生き物の新たなエサとなります。
そんなデトリタスを求めて、甲殻類やゴカイ類が集まってきます。

まとめ

牡蠣筏の下では、植物プランクトンから魚までが関わる小さな生態系がありました。
その循環を支えているのは、中国山地の森、川、そして人の暮らしです。
牡蠣筏は、海と人をつなぐ場所ともいえるかもしれません。

参考文献

しゅんぎく
広島がもっと好きになるきっかけを、そっと置いています。
えきもほてお編集長|HIT AWARD 2022 エキスパート賞 受賞
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